バイオリソース普及センター

種の地域性の保全

千葉県には古くからニホンザルの野生の群れが存在し、遺伝的に際立った特徴を持っています。特に高宕山を中心とする地域は、野生のニホンザル生息地として国の天然記念物指定を受けています。一方で、房総半島全体で見ると、これらニホンザルの増加により、作物被害など人間生活への影響が認められ、「保護」と「被害対策」の両面での対応が迫られています。

近年、外来の近縁種であるアカゲザルが、観光施設やペットの放獣を経て房総半島南端を中心に野生化し、ニホンザルとの交雑による遺伝的な擾乱を起こして大きな問題となっています。アカゲザル及びその交雑個体は、「特定外来生物」として法律で駆除の対象となっており、このまま交雑が進むと、本来持っていた遺伝子が変化し房総半島からニホンザルが消滅(絶滅)してしまう恐れもあります。さらに、この遺伝的な擾乱が、房総半島から県境を越えて県外に広がってしまうと、房総半島の地域性のみならず種としてのニホンザル全体への影響も心配されます。

そこで、千葉県と環境省では、房総半島に生息するサルの群れの状況を把握し、ニホンザルの保護と被害対策に加えて、法に基づいたアカゲザル及びその交雑種の排除を進めています(千葉県特定外来生物(アカゲザル)防除実施計画について)。ニホンザルとアカゲザルは非常に近縁のため、交雑も簡単に起こり、見た目だけでは交雑種かどうかの判断がつかないことも多くあります。かずさDNA研究所ではその分析技術を活かし、サル研究の専門機関でもある京都大学霊長類研究所との協調のもと、遺伝子分析を通じて県の事業に協力しています。

遺伝子分析技術詳細についてはバイオリソース普及センターまでお問い合わせください。


参考:
萩原 光, 相澤 敬吾, 蒲谷 肇, 川本 芳 2003: 房総半島の移入種を含むマカカ属個体群の生息状況と遺伝的特性. 霊長類研究 19: 229-241.

川本芳, 萩原光, 相澤敬吾 2004: 房総半島におけるニホンザルとアカゲザルの交雑. 霊長類研究 20:89-95.

川本芳, 川本咲江, 川合静, 白井啓, 吉田淳久, 萩原光, 白鳥大祐, 直井洋司 2007: 房総半島に定着したアカゲザル集団におけるニホンザルとの交雑進行. 霊長類研究 23:81-89.

大井 徹, 河村 正二, 竹ノ下 祐二, 浅田 正彦, 山田 文雄 2013: 第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会 2013年度合同大会自由集会(1)報告 千葉県の外来種アカゲザル問題を考える. 霊長類研究 29:137-171.